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第16回:ジャズの根源、ディープ・ウエスト・アフリカ~音楽編

 「アフリカのリズムを学びたいと思ったら、3ヶ月ぐらいそこに住むのが一番だよ」。以前、リチャード・ボナ(第8回:アフリカン・テイル参照)にインタヴューした時に聞いた言葉がずっと頭から離れなかった。「アフリカに長期滞在してみたいが、そのための予備知識もコネもない。さてどうしたものか……」。そんな時、運命の巡り合わせとは面白いもので、アフリカにコネクションを持つドイツ人カップルと出会い、楽器の買い付けを目的とする彼らのアフリカ行きに同行することができた。訪れたのは、西アフリカ・ブルキナファソの南西部にあるブルキナファソ第二の都市ボボディウラッソ(通称ボボ)である。2002年3月10日から4月10日までの4週間、バラフォンとジャンベ製作者たちの仕事ぶりを間近で見ながら、本物のアフリカン・グルーヴとそのヴァイブレーションに浸った。もう7年近くも前のことだが、このブルキナファソ訪問はいまだに強い印象を残している。今回は、その旅行中に体験した、ボボの音楽と楽器に関係する話題を、その時に撮影した写真を交えてお伝えする。なお、現地滞在中にかいま見た人々の日常生活に関することは、次回“生活編”で紹介したいと思う。
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Miriyagnouma
ボボで活動するバンド“ミリヤグノウマ”のリハーサル風景





アフリカの伝統楽器〜バラフォンとジャンベ
 バラフォンとジャンベは、コラなどと並ぶ西アフリカの代表的な楽器である。マリンバの始祖ともいわれるバラフォンは、堅い木で作られた鍵盤の下に共鳴用のひょうたんが取り付けられたアフリカの木琴で、バチを使って演奏する。最近ではジャズやロックのパーカッション奏者がコンガやボンゴと組み合わせる事も珍しくないジャンベは、真ん中をくりぬた木の胴に山羊の皮を張って手で叩いてプレイするタイコで、良く響く低音からタイトな中音、そして耳を劈くアタックの効いた高音まで、幅広い音表現が可能なスーパー・ドラム。ブルキナファソのボボは、そのバラフォンとジャンベの本場である。バラフォンもジャンベも西アフリカ各国で見られるが、ボボで作られるものは、現地の人がゴニロゴと呼ぶ堅い木を使うために、どちらも他の国のものと比べてサウンドがタイトで切れが良いのが特徴だ。ボボ滞在中は、地元の人たちによる伝統的なバラフォンとジャンベ製作の様子を間近で見ることができた。
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ジャンべを叩く3人の若者

グリオの子アダマの空き缶パフォーマンス
 ボボ市内西部にあるコルマという地区に住むバラフォン作りの名人でグリオでもあるアブ・コイタを訪ねた。グリオとは、アフリカの音楽家のことである。アフリカでは、グリオの家系に生まれた者以外の人間が音楽家になることは許されないという伝統がある。グリオは人々から尊敬される高貴な存在なのだ。余談だが、世界的に有名なマリ出身のミュージシャン、サリフ・ケイタ(vo,g)はグリオではない。グリオの家系に生まれていない彼の場合は、本人が周囲の猛反対を押し切って音楽の道へと進んで成功した“特例”である。
 さて、アブがバラフォンを製作するその現場を訪ねた時、アブの息子で5才(当時)のアダマが、突然我々の目の前でパフォーマンスを開始した。道ばたで拾ってきた小さな空き缶を両ひざにはさんで、ジャンベ・マスターの風格で叩く! 叩く! そのグルーヴィーな空き缶プレイは、まさに“本物”を感じさせるエモーショナルなものだった。ボボの伝統音楽をしっかりと受け継いでいる子供たちがいる。日本でも民謡や演歌がめちゃくちゃ上手い子供がいるように。
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空き缶をジャンべに見立てて叩くアダマ。グリオの血を引くだけあってその“タメ”のあるリズム感は素晴らしかった。
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バラフォンを製作中のアブ(手前の白いTシャツの人物)。なんとこれが彼の作業場(家の庭先)。最小限の道具以外には何もない。後ろではバラフォンの枠組みを作っている。
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共鳴用のひょうたんを取り付けているところ。

ジャンベ製作風景
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手前左で胴を削り出し、後方の2人は出来上がった胴に紐をかけるためのリングを取り付けている。手前右は、打面に張った皮にテンションをかけるための紐をかけているところ。
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ジャンベ製作最終段階。山羊の皮は一晩水につけて柔らかくしたあと張られる。手前2人が皮張り作業中。後方の人物は、張られた皮の毛を剃っている。左手前にはまだ毛が剃られていないジャンベが見える。
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「これ買わない? いい音するよ!」。街中でジャンべを売る若者。

アフロ・フュージョン・バンド“ファラフィナ”
 この街はアフリカン・フュージョン・バンド、ファラフィナの出身地でもある。ちなみに、「ファラフィナ(Farafina)」とは、ボボの人々が、公の場以外の日常会話で使っているジュラ語で「土地の人(ブルキナ人)」という意味。ついでに、我々のような外国人は「トゥバブ(Tubabu=よそ者)」である。それともうひとつ、地元の人たちは、ジャズやロックを融合したいわゆるフュージョン音楽(ファラフィナのサウンドもこの範疇に入る)のことを“リサーチ”と呼んでいた。ファラフィナの創始者でバラフォン奏者のママ・コナテは、筆者が現地を訪れた時はすでにバンドを離れており、ボボ市内で後進の指導にあたっているとのことだった。残念ながらコナテと会うことはできなかったが、コナテと共にファラフィナ結成時からのメンバーで、現在もファラフィナのヴォーカリスト&フルート奏者として活躍するスンガル・コリバリに会うことができた。さらに、スンガルの息子イサ・コリバリのバンド「ミリヤグノウマ(Miriyagnouma=ジュラ語で“喜び”、“歓喜”の意)」(トップの写真)やその他の地元ミュージシャンたちのライヴも滞在中にいくつか観ることができた。また、ブルキナファソ中のミュージシャンやダンサーが2年に1度ボボに集まって行なわれるという“カルチャー・フェスティヴァル”や、カメルーン出身のミュージシャン、レイ・レーマ(vo,kb)のライヴなどもボボ市内で観ることができて、西アフリカのミュージシャンと観客の“ノリ”を目の当たりにすることができたのも収穫だった。
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ママ・コナテらと共にファラフィナ創成期からのオリジナル・メンバーで、現在もファラフィナで活躍するフルート奏者スンガル・コリバリ(アフロ衣装に帽子の人物)の家で。コリバリの息子イサ(コリバリの左側、野球帽にTシャツの若者)は、バラフォンやゴニなどの楽器製作を行ないながら、9人~10人編成のバンド、ミリヤグノウマ(冒頭写真)のリーダーとして活動するミュージシャン。父と息子の歌声は良く似ていた。

ボボ市内で行なわれたレイ・レーマのコンサート
 入場券は、3000CEFA(セーファ)。当時のレートで日本円にすると600円弱。我々の感覚ではめちゃ安だが、地元の一般人にとっては、1ヶ月間の1人分の食費とほぼ同等、またはそれ以上の値段だ。レーマのバンドは、キーボードを弾きながら歌うレイ以下、レイと同じカメルーン人のギタリスト、ゴニ奏者、ドラマー、それに4人のモロッコ人のシンガー兼ダンサー兼パーカッション、という8人編成。客は地元の人々(お金持ち?)の他に白人の姿が結構目についた。演奏がはじまると、客席の前の方に座っていたカラフルなアフリカン衣装を着た女性がすっくと立ち上がり、すたすたとステージに上がると、レイと一緒に踊り出した。最初は、彼女もバンドのメンバーかと思ったが、曲が終わると、またすたすたと自分の席に戻って何事もなかったようにコンサートの続きを観賞している。日本や欧米では、観客がステージに上がろうとしたら係員に取り押さえられてすぐにその場から連れ出されるが、アフリカでは、オーディエンスが舞台の上にあがってミュージシャンと一緒に踊るというのは普通である事をその時に知った。

底抜けに陽気で明るいボボの人たち
 暮らしの中に音楽が浸透している。出産誕生、洗礼、結婚などの祝い事があると、人々は夜を徹して歌い踊り明かす。楽器をまったくプレイしない人も当然いるが、みんな底抜けに陽気で明るくて人なつっこくてダンスが大好き。ある時、散歩に出かけるとバラフォン2台を中心とするオーケストラが演奏していた。何か祝い事があったらしく、女性はみんな美しい衣装を着て輪を描いて踊っている。物心ついた頃から聴き慣れて肌で感じてきたリズムとグルーヴが人々の身体の中に染み付いているようす。トーキング・ドラムの音が聞こえただけで、カラフルな衣装のご婦人が大きな腰を揺らして踊り出すのだ。
 ジャンベとバラフォンは、いろんな場所で数多く見かけた。地元で活動するトラディショナルなスタイルのバンドは、バラフォンとジャンベを中心にドゥンドゥンバ(大太鼓と中太鼓に金属の鳴りものを組み合わせたもの)やドゥンバラ(大きなひょうたんを胴にした太鼓で、ジャンベのサポート役)、トーキング・ドラム、ゴニ(コラをシンプルにしたような弦楽器)、金物やマラカスなどパルスを刻むもの、そして女性ダンサー、さらに場合によってはフルートが加わるという編成。しかし21世紀の今日、ディープ・サウス・アフリカといえども、生活の中で聞こえてくる音楽はトラディショナルなものばかりではない。当然のことながら、多くの人々はモダンな音楽も好んで聴いて演奏もする。ジャンベやバラフォンにエレキギター、ベース、ドラム(ドラムなどと呼べたようなシロモノではないオンボロが常だったが)などをミックスしてアフリカン・ビートをプレイするバンドやレゲエ・バンドなどもよく目にした。特にレゲエ、ボブ・マーリーはすごい人気だった。
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ギターを手に持ち自転車を片手運転していたモダンな(?)若者
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若い頃のスタンリー・クラーク似の(?)背の高い人物がプレイしているのがドゥンドゥンバ
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人間ドラム・セット?

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by reijimaruyama | 2009-01-05 21:42 | Burkina Faso