第8回:アフリカン・テイル
2008年 04月 19日
2008年4月11日、春のヨーロッパをツアー中のリチャード・ボナ(b,vo)をドイツ・ルール工業地帯の街ドルトムントで撮影。
Richard Bona Live in Dortmund 2008.04.11 at domicil
フェミ・クティは舞台の上で上半身裸になって汗まみれ。ステージ衣装がスーツにネクタイというメイシオ・パーカーも演奏中はいつも汗びっしょりだ。ジャズ史に巨大な足跡を残したサックス・ジャイアント、ジョン・コルトレーンもしかりで、コルトレーン以下バンドのメンバー全員が体から湯気が立つほど汗をかいている生前のライヴ映像が残っている。だから「良い演奏家=汗をかかない」とは一概に言えないかもしれないが、今回ここに登場するリチャード・ボナは、ものすごいプレイを汗ひとつかかずに楽々とこなす、まさに「国王好み」のミュージシャンである。
1999年5月13日にドイツのレヴァークーセンでボナにはじめて会ってインタヴューした時、「ベースを弾くのにマッチョである必要はまったくない」とボナは言っていた。音楽は、“力まかせ”だったり“苦労”や“苦痛”を伴ってやるようなものではない、という考え方なのだ。
さて、ドルトムントで観たボナの最新ライヴは、キャパ400人ぐらいのオール・スタンディングのホールに満員の観客を集めて行われた。
ボナ・バンドは、ボナを含めて6人編成だが、この日はパーカッションのサミュエル・トレスが欠けていた。ボナのツアー・マネージャーによると、トレスを含むボナ一行は4月7日にハンガリーでのライヴを無事に終えたが、同国出国の際にトレスのビザ(査証)だけがその1日前に切れていた事が発覚、トレスはそのまま当地で1週間の足止めを食らっており、彼が再びツアーに合流するまでドイツとスロバキアの計4回のライヴをトレス抜きのメンバー5人(エティエンヌ・スタッドウィック/kb、テイラー・ハスキンス/tp、アーネスト・シンプソン/ds、アダム・ストーラー/g、ボナ)で行うということだった。ドルトムントのライヴは、トレスのラテン・グルーヴを欠きながらも、ボナがいつも通りのハイ・グレードなステージを展開して2曲のアンコール(最後は今回のツアーで初登場したノリの良いアフリカン・ポップ風の新曲)を含む2時間あまりの熱演を観せ、それを受けた聴衆も大合唱で歌い踊り大いに盛り上がっていた。
この日のコンサートを主催したのは、ボナと同じアフリカ・カメルーン出身のCEOが経営するドルトムントのイヴェント会社だ。そのためか会場内にはドイツ人に混じってカメルーン人とおぼしき観客も数多く見受けられた。ボナは、ステージの上では母国語のドゥアラ語やフランス語で大声援を浴び、ライヴ後の楽屋では主催者が用意した手作りのカメルーン料理に舌鼓を打って、終始ご機嫌の笑顔を見せていた。そんな同国人の温かい後ろ盾を得たボナが、この日のライヴで本領を十二分に発揮したのはしごく当然のことだったのかもしれない。
ボナ・バンドの新しいギタリスト、アダム・ストーラーは、ボナが以前NY大学でレッスンをつけていたボナの教え子。昨年秋のヨーロッパ・ツアーからボナ・バンドに参加している。
師は、この日のステージでも愛弟子に温かいまなざしを送り続けていた!
ボナの新作ライヴ・アルバム "Bona Makes You Sweat"
これまでボナのライヴを何度も観てきたが、ボナの躍動感に溢れたグルーヴを会場で受け止めていると、いつもじっとしていられず体が自然と熱くなって、気がつくと汗まみれの自分がそこにいる。先月発売されたボナの新作は、ボナ5作目にしてベース・ファン待望のライヴ盤となった。アルバム・タイトル(原題:Bona Makes You Sweat)が示す通り、たっぷり汗をかかせてくれるボナ・ライヴの興奮がしっかりと詰め込まれたボナ会心の作である。ちなみにこのアルバムの邦題は『リチャード・ボナ/ライヴ』。ハンガリーのブダペストで録音されたこのアルバムは、ベース・ファンのみならず、すべての音楽ファンにお薦めしたい。
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by ReijiMaruyama
| 2008-04-19 05:28
| Musician